透析療法
慢性腎臓病が進行した時に受ける透析療法とはどんなものでしょうか?ここでは、透析療法の種類や治療内容などをまとめました。
慢性腎臓病における透析療法とは
腎臓は体内の生理機能を維持するための大切な臓器です。不要な水分・老廃物を体の外に排出するだけでなく、電解質・血圧の調整や、骨の生成・赤血球の産生にも深く関わっています。慢性腎臓病が進行すると、これらの機能が徐々に失われていくため、体に不調をきたします。
慢性腎臓病で失われた腎機能は元に戻りません。そのため治療では「いかにして残された腎機能を守るか」に重点が置かれます。治療の初期では、食事療法や薬物療法、生活習慣の改善など、腎臓病の進行を遅らせ、残された腎機能を守るための「保存療法」が行われます。数ヵ月から数年を経てさらに腎機能が低下すると、保存療法では対応が難しい「末期腎不全」の状態になります。
末期腎不全になると、腎臓のはたらきは健康な人の約10%以下になってしまいます。ここまで腎機能が低下してしまうと、体内の生理機能を維持することができません。そのため、腎臓の役割を代行する治療法が必要となります。これを「腎代替療法」といい、大きくわけて「透析療法」と「腎移植」の2つがあります。ここでは透析療法について解説していきます。
透析療法の種類
透析療法とは、血液中の余分な老廃物や水分を取り除き、人工的に血液をキレイな状態にする治療です。体外の機械を通して血液をろ過する「血液透析」と、体内の腹膜を使って血液をろ過する「腹膜透析」があり、どちらも次のような役割をもっています。
透析療法の役割
- 血液中の老廃物をろ過する
- 尿として排出できない余分な水分と塩分を除去する
- 電解質のバランスをコントロールし血液のpHを調整する
透析では、赤血球を作るエリスロポエチンや血圧調整に係わるレニンなど、ホルモンの分泌・調整に関する機能は代替できません。透析療法を開始しても、それでは改善できない症状への薬物療法、透析療法に対応した栄養管理などが必要になってきます。
どちらの透析治療にもメリット・デメリットがあります。腹膜透析は通院が月1~2回ですみ、生活への影響も少なくてすみますが、自己管理が必要で、限られた期間しか行えません(5~10年)。一方、血液透析は週に数回と通院頻度が高くなりますが、病院での治療なので何かあったときも安心で、長期間続けられるという利点があります。
近年は、まず腹膜透析から始め、それから血液透析へ移行することで、残された腎機能を長期間保持することができると考えられているようです。
透析はいったん始まると何年にもわたって続く治療であるため、家族の理解や協力が必要です。患者さんの年齢や体力、原因疾患・合併症、日常生活への影響など、ご家族と一緒に病院の医師やスタッフと相談しながら、負担のかからない治療法を選んでください。
血液透析
血液透析は、ダイアライザーと呼ばれる機械に血液を通し、血液中の水分や老廃物を取り除いて血液をキレイにする治療法です。英語のHemodialysisを略してHD透析とも呼ばれます。国内の透析患者の97%が選択している、もっとも普及率の高い腎代替療法です。
血液透析では腕の血管に2本の針を刺し、血管とダイアライザーを2本のチューブでつなぎます。そして、ポンプを使って血液をダイアライザーに送り、ろ過した血液を再び体内に戻すという循環を繰り返して血液を浄化します。
限られた時間で全身の血液をろ過するには、1分間に約200mlの血液を送り出す必要があるため、通常の採血のように今ある静脈だけで透析を行うことはできません。そのため、腕に「シャント」と呼ばれる血液の出入り口を作って、そこから血液を循環させます。
一般的に週3回の通院が必要で、1回の治療時間は約4~5時間になります。通院の頻度が高いため生活の制約は多くなりますが、通院するだけですむ、定期検査や合併症の治療を同時に受けられるといったメリットがあります。
一般の透析治療以外に、次のような血液透析を実施している病院もあります。
血液透析の種類
- 長時間透析……1回6時間以上の時間をかけて透析を行います。ゆるやかに、より多くの尿毒素や水分を取り除けるため、体への負担が少なく、症状の改善効果が期待できるとされています。
- オーバーナイト透析……夜間の睡眠時間を利用した透析療法です。透析施設で夜間に実施し、翌朝帰宅します。昼間の透析同様、週3回の通院が必要ですが、日中の時間を確保できます。
- 頻回透析……週5回以上透析を行う治療法です。1回の治療時間が短く、体への負担が少ないといわれています。透析の間隔が短いと血液の状態が安定するため、心血管系の合併症をもっている人にも安全な透析と考えられています。
- 在宅血液透析……医師の管理のもと、患者さん自身が自宅で血液透析を行います。研修期間と透析器を設置するための準備費用がかかりますが、通院の負担が大幅に減り、好きなタイミングで十分な量の透析を行えるというメリットがあります。
シャントとは
血液透析は機械に血液を通してキレイにし、再び体内へ戻します。そのため、1分間で200mlの血液を体から取り出す必要があり、手術を受けて血液の出入り口となる「シャント」を作らなければなりません。
血液透析では腕の静脈に針を刺して血液を取り出しますが、静脈は血流が弱いため、そのままでは十分な血液量を取り出せません。そこで、手首の内側の動脈と静脈をつなぎ、動脈の血液の流れを静脈に合流させることで、透析に必要な血液流量が得られるようにします。つながれた部分は太い血管となり、透析中の血液の出入り口として使えるようになります。これがシャントです。
シャントは通常、利き腕ではないほうの手に作ります。局所麻酔で行われ、痛みはほとんどありません。手術にかかる時間は約1~2時間で、手術後おおよそ2~4週間で透析治療を行うことができるようになります。
ダイアライザーとは
ダイアライザーは、腎臓の糸球体と同じように、血液中の老廃物や水分、電解質をろ過する装置です。直径4cm、長さ30cmほどのプラスチックケースの中に、細いストロー状になった血液透析膜の束、約10000本が収納されており、ケース内は透析液と呼ばれる液体で満たされています。
ダイアライザーは「浸透圧」を使って血液をろ過します。シャントから取り出された血液はダイアライザーに入ると、透析液に浸された透過膜のストローの内部を通過していきます。この際、血液の濃度が透析液よりも高いため浸透圧が生じ、透析膜の穴よりもサイズの小さい物質(尿素チッ素、クレアチニン、尿酸、カリウム、リン、水分子など)が透析液へと排出されるのです。同時に、透析液中のカルシウムや重炭酸イオンなど有用な成分が血液のほうへ移動するため、ダイアライザーを出た血液はキレイな状態になっているというわけです。
最近は、ダイアライザーの透過膜に圧力をかけてろ過効率を高めた「血液ろ過透析(hemodiafiltration:HDF)」も広まってきています。HDFではβ2-ミクログロブリンなどこれまで除去できなかった分子量の大きい老廃物も除去できるほか、透析中に低血圧が起こりにくく、従来のHDよりも心臓への負担が小さいなどのメリットがあると言われています。
腹膜透析
腹膜透析は、体内の「腹膜」をろ過装置として利用する治療法です。英語のPeritoneal Dialysisを略してPD透析とも呼ばれます。腹膜は、胃や肝臓など腹部の臓器全体を覆っている薄い膜で、表面に毛細血管が網の目のように張り巡らされています。腹膜に覆われている臓器の間には「腹膜腔」と呼ばれるわずかなすき間があり、そこに透析液を出し入れすることで血液をキレイにする治療法です。
腹膜腔に透析液が注入されると、腹膜の毛細血管を通して血液中の老廃物や電解質、余分な水分が透析液の中に移動します。一定時間後、古くなった透析液を取り出して新しい透析液に交換することで、血液を浄化するという仕組みです。
治療を始めるには、カテーテルを腹部に埋め込む手術が必要です。カテーテルは5~6ミリほどの細い専用チューブで、手術は1時間ほどで終わります。
腹膜透析は、毎日時間をかけてゆるやかに透析を行うため、腎臓のはたらきに近い安定した透析療法といわれています。心血管系への負担も少ないようです。1日に数回、1回につき30分ほどかけて透析液を交換します(バッグ交換)。通常、通院は月1~2回程度で、職場や外出先でも透析が可能なため、生活への影響は血液透析よりも少なくてすみます。
デメリットとしては、バッグ交換や感染症対策など自己管理が必要であること、腹膜のろ過機能が低下するため5~10年程度しか治療が続けられないことが揚げられます。カテーテル腹膜腔に透析液を注入するため、若干、お腹が張った感じが気になるという患者さんもいます。
腹膜透析の種類
腹膜透析には「CAPD(持続携行式腹膜透析)」と「APD(自動腹膜透析)」の2種類があります。そのほか、血液透析と組み合わせる「ハイブリッド療法」と呼ばれるものもあります。
腹膜透析の種類
- CAPD(持続携行式腹膜透析)……CAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis:持続携行式腹膜透析)は、腹膜透析の基本的な方法です。1日4回、1.5~2Lの透析液バッグを手動で交換し、24時間持続的に透析を行います。交換時には、まず腹部の透析液を空のバッグに排出し、その後、新しい透析液の入ったバックから腹部に透析液を注入します。最近では透析液の量や交換頻度を少なくし、様子をみながら透析液の量や交換頻度を増やす「インクリメンタルPD」と呼ばれる方式もあるそうです。
- APD(自動腹膜透析)……APD(automated peritoneal dialysis:自動腹膜透析)は、夜寝ている間に「サイクラー」と呼ばれる自動腹膜透析装置を使って透析を行う治療です。就寝前と起床後に機械を操作する作業が必要ですが、就寝中に透析が完了するので、昼間は自由に過ごすことができます。
- ハイブリッド療法……腎機能の悪化により腹膜透析だけでは血液を十分に浄化できなくなった場合、血液透析を組み合わせることがあります。腹膜透析の約2割の患者さんがこのハイブリッド療法を行っています。
透析治療の現状
慢性腎臓病は新たな国民病とも言われる重要な慢性疾患です。日本透析医学会の統計調査で、患者数が1330万人に達していることが明らかになり、日本人の成人8人に1人が慢性腎臓病であると考えられています。
じつは慢性腎臓病というのは意外に新しい概念で、2002年、米国腎臓財団(NKK)によって初めて提唱されました。その背景にあるのが、透析患者の増加です。
2001年の統計によると、世界の透析患者数は114.1万人。アメリカの人口は世界の4.5%を有していますが、透析患者数は28.8万人で世界の透析患者の25%を占めていることがわかりました。さらに、世界の2.1%にすぎない日本は、透析患者数に関しては全透析患者の19%を占めていることが明らかになったのです。
パンフレットやセミナーでの啓発活動、CKD特設サイトの開設等々、慢性腎臓病のリスクを認知してもらうためさまざまな取り組みがなされていますが、透析患者数はいまだにゆっくりと増加しています。
日本透析医学会がまとめた「図説わが国の慢性透析療法の現況」によると、2016年の透析患者数は32.96万人。3.93万人の新たな患者が透析を導入し、3.18万人の患者が死亡したことがわかりました。透析導入患者の43.2%が糖尿病性腎症であることが報告されています。
また、透析患者の高齢化が進んでおり、認知症対策や終末ケアなど、透析の現場でも医療と介護の連携がこれまで以上に必要となってきています。
さらに、透析患者の増加は、医療費も大きく圧迫しています。透析療法にかかる1ヵ月の医療費は、外来血液透析でおよそ40万円、腹膜透析で30~50万円と言われています。人工透析患者には公的医療保険制度の「特性疾病高額療養費制度」が適用されるため、患者の負担は大幅に軽減されますが、残りの医療費は公的医療保険制度から拠出することになります。
たとえば、透析患者33万人に1人あたり年間480万円の医療費がかかるとすると、その合計は約1兆6000億円。2016年の国民医療費は総額42兆1381億円、人口1人当たり33万2000円であることを考えると、透析に係わる医療費がどれほど大きな負担となっているかがよくわかると思います。
透析の現状について後ろ向きなことばかり書きましたが、慢性腎臓病対策がまったく役に立っていないわけではありません。むしろその逆で、2005年以降、男女とも、年齢調整後の透析導入患者数は減少しているのです。
2005~2015年のデータでは、男性では80歳以下、女性では84歳以下の透析導入患者数が徐々に減っていることが報告されています。日本透析学会はこれらのデータから、「日本の透析患者数は、2021年の約34万9000人をピークに減少に転じる」と予測しています。この予測が裏切られないよう、日ごろから慢性腎臓病の予防を心がけ、健康で規則正しい生活を送りたいですね。
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