慢性腎臓病と飲酒
慢性腎臓病には生活習慣が大きく影響していると考えられています。健康に影響を与える生活習慣の1つである飲酒は、慢性腎臓病の原因になったり、症状を悪化させたりするのでしょうか?
じつは、飲酒が慢性腎臓病を悪化させるという報告はありません。逆に、適量のお酒は血流をよくして、腎機能の維持にプラスとしてはたらくことがわかっています。一般社団法人日本腎臓学会は「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」のなかで、少量から中等量のアルコール摂取(1日10~20g程度)はeGFR値を維持し、たんぱく尿を減少させる可能性がある、としています。
とはいえ、中等量以上のアルコール摂取(1日20~30g以上)に関しては、たんぱく尿を発症させるリスクが高まることも報告されています。過度の飲酒は禁物です。
アルコールを摂る上での注意点
1日のアルコール摂取量は20g以下に抑えるのがよいでしょう。また、適量であっても毎日続けての飲酒は肝臓に負担をかけ、それが腎臓に悪い影響をおよぼすこともあります。週に1~2日は休肝日を設けるように心がけましょう。
1日のお酒の適正量(アルコール約20gを含む量)
- ビール……中ビン1本(500ml)
- 缶チューハイ……1.5缶(約520ml)
- 日本酒……1合(180ml)
- ワイン……1/4本(約180ml)
- 焼酎……0.6合(約110ml)
- ウイスキー……ダブル1杯(60ml)
ただし、禁酒が必要なケースもあります。肝臓疾患のある方や、糖尿病性腎症など腎臓病が進行している方、降圧剤などアルコールと相性の悪い薬を飲まれている方は、お酒を飲んでよいかどうか、必ず医師に相談するようにしてください。
水分量
水分摂取量を制限されている方は、アルコールを飲水量として換算することを忘れないようにしましょう。ビールや酎ハイなど水分の多いお酒を飲むときは特に注意が必要です。アルコール量は適正量以下であっても、水分量が1日の制限を超えてしまう場合があるからです。
健康な成人が1日に必要とする水分量は、体重1kgあたり50mlと言われています。体重60kgの方なら1日3Lが必要です。そのうち、代謝によって生成される水分と食事に含まれる水分で約半分がまかなわれ、残り半分となる1.5Lを、飲み物として口から摂取することになります。
しかし、慢性腎臓病で水分摂取量を制限されている患者さんの場合、経口で摂取できる水分量が大幅にカットされます。透析治療中だと、1日500~600mlの水分制限を指導されることも。ビールや酎ハイをジョッキで飲んでいたらあっという間に制限量を超えてしまいます。
医師の指導のもと、適量のお酒を飲むこと自体に問題はありません。決められた水分量を超えないようにしながらお酒を楽しみたいですね。
たんぱく質
生活習慣病を防ぐ上手なお酒の飲み方としてよく紹介されるのが「たんぱく質の豊富な食べ物を一緒に摂る」こと。たんぱく質が肝細胞の再生を促進し、アルコール代謝酵素の活性を高めるため、アルコールの消化・分解をスムーズにするというのがその理由ですが、慢性腎臓病で食事療法を受けている患者さんは、こうした飲み方ができません。たんぱく質の摂取上限が厳しく決められているからです。
慢性腎臓病の食事療法では、ステージ3b以降、1日のたんぱく質の適正摂取量が体重1kgあたり0.6~0.8gに制限されます。たとえば体重60kgの方なら最大48gまでしかたんぱく質を摂ることが許されません。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で定められた成人のたんぱく質摂取量(推奨)は60gなので、健康な人より2割以上もたんぱく質をカットしなければならないのです。そのため、お酒のおつまみは極力低たんぱく質のものを選ぶ必要があります。
意外なことに、お酒にもたんぱく質が含まれています。ビール・日本酒・紹興酒などの醸造酒に多く、紹興酒コップ1杯(100g)には1.7gものたんぱく質が。一方、焼酎・ウオッカ・ウイスキーなどの蒸留酒にはほとんど含まれていません。食事療法中なら、たんぱく質量を気にせずに飲める蒸留酒がオススメです。
おもな蒸留酒100gに含まれるたんぱく質量
- 清酒(純米酒)……0.4g
- 清酒(吟醸酒)……0.3g
- ビール(淡色)……0.3g
- ビール(スタウト)……0.5g
- ワイン(白)……0.1g
- ワイン(赤)……0.2g
- 紹興酒……1.7g
飲酒時の食欲増進
お酒は食欲を増進させるため、油断をするとつい、おつまみを食べすぎがちです。おつまみは脂っこく味が濃いものが多いため、お酒がさらに進んでしまい、気がつくと飲みすぎ・食べすぎの悪循環にはまっていることも少なくありません。こうしたアルコール・カロリー・塩分の摂りすぎは、肥満・高血圧・糖尿病となどの生活習慣病を引き起こすもっとも大きな要因です。
複数の生活習慣病リスクを抱えたメタボリックシンドロームの患者さんは、慢性腎臓病が起こりやすくなることがわかっています。メタボと診断されたら、肥満を改善し、減塩を心がけるようにしましょう。腎臓が健康な方であっても、過度の飲酒は控え、カロリーや塩分の摂りすぎないような食生活を続けることで、慢性腎臓病のリスクを減らすことができます。
慢性腎臓病の患者さんは、食事療法の指導に応じて、低たんぱく質、低塩分のメニューを選ぶようにしましょう。最近は、メニューの栄養成分表を公開しているお店も増えてきました。上手に活用したいですね。